工務店だけど、自宅の設計をなぜ建築家に依頼したのか

事務所兼住居の設計は、ここちよくprojectのメンバーである樋口さんにお願いしました。

工務店という立場で建築士の資格も持っているので、
自分で施工するだけではなく、“設計”することも、もちろん可能です。
けれども、なぜ建築家である樋口さんに設計を依頼したのか。
これから住まいづくりを考えている方の参考にもなるかと思い、書いてみたいと思います。

打ち合わせ

これまで、たくさんの建主の家づくりをお手伝いさせていただいてきました。
では、自分は一体どういう家をつくりたいのか。

どんな間取りの家がほしいか?
家の広さは?
敷地にどういう風に配置するのか?

自分なりに、形に落とし込もうといろいろ考えてみたけれど、どうもしっくりこないのです。

タイミング的には、結婚をし、そろそろ新しい家族も増えるという時期でした。
この家族でどういう暮らしがしたいか、
どのように子育てというか、子供にしてあげられることはなんなのか?
これは、いろいろと考えが浮かんできました。

住まいをつくるという仕事柄、いろんなご家族と接してきましたので、
「自分だったらこういう暮らしがしたい」ということを漠然とイメージすることができたのです。

でも、やはりその「暮らし」をどうやって住居という「かたち」にしていくかを考えるのは全く別問題でした。

けれども、身近なところに、答えはありました。

軸組模型

「どんな暮らしをイメージしますか?」
樋口さんの設計は、いつもこの言葉からはじまります。
http://cocochi-yoku.net/column/?p=10 

その言葉から、家づくりが始まって完成していくまでを、何軒も体感してきてたんですよね。
じゃあ、自分もそうしよう!と思い、樋口さんに正式に設計を依頼することになりました。
打ち合わせでは、さまざまな話をします。

「深い軒がほしい」
「できるだけコンパクト」
「物はあまり置きたくない」
「収納はたくさんほしい」
「人が集まる暮らしがしたい」
「冬は、太陽の温かさを感じる暮らしがしたい」
「夏は、エアコンではなく、自然の風を感じたい」
「子供は、庭で走り回り、自然を感じてほしい」
など。

その漠然としたイメージから、どんどん具体的なイメージへと変わっていきます。
そして、そのイメージを基にプランが出来上がっていく。
建主のみなさんが図面ができあがっていく時にわくわくする気持ちが、とてもよくわかりました。

棟上げ
建築家に設計を依頼する最大のメリットは、間取りを考えてもらうということではなくて、建て主の持つ漠然としたイメージからその人の思い描く暮らしを読み取り、家を器とした「暮らしをデザインしてもらえる」ということだと思います。

そうしてできた家に住み始めて1年7ヶ月。
設計段階ではお腹にいた娘も2歳となり、この家でおおらかにすくすくと育ってくれています。

暮らし

図面を形にする職人たち


大工

建主の暮らしを表したものが、設計図になるのだから、できるだけ内容の充実した良い設計図が必要です。

では、よい設計図があればいい家が出来上がるのか?

図面があれば家ができあがるのが当然だと思われるかもしれませんが、 実はそうではありません。

1件の家をつくるためには20を超える業種が必要となります。
そして、家が完成するまでには総勢100人を超える職人が工事に携わることになります。

現在は、材料や工程が工業製品化されたり、いろんな部分でIT技術が導入されたりしていますが、 あくまでも住宅は“現場”で“職人の手”によってつくられています。
そういう職人の技術の集まりによって「家」というのはできあがるのです。

現在の家づくりは、工期やコスト削減のために、手間を省き、高度な技術を必要としない工法も生まれています。
誰がやってもある程度の品質を保つことができる。
しかも早く。
これは、お施主様にとってもメリットの一つでもあります。
そのため使う材料は、工業製品、いわゆる“新建材”と呼ばれるものが主流になってきています。

杉板

「ここちよくproject」では、できるだけ自然な素材をつかって、職人の高度な技術を大切にした家づくりを目指しています。

建築家が設計した建主のための設計図は、それぞれの建主の十人十色の暮らしの部分を図面化していますので、標準化して表現することがとても難しいもの。
また、それと同時に設計図に描かれたものを実際に形にする職人の技術がとても大事になってきます。

職人の代表的な存在で、家づくりの要になるのが、やはり大工です。
住宅では、木の占める部分がおおきくて、木というのは、ゆがみや経年変化による歪みが出やすかったりもします。

ですので、狂いなどがでにくい集成材や新建材といった材料がどんどん利用した家づくりが主流となってきています。

それでも、歪みが出てしまうのが木の特徴です。

仕上げしまうと隠れてしまう下地の段階でしっかりと手間をかけ、木の変形の性質を読み、しっかりと調整したりすることで、メンテナンスに手間のかからない家を作ることができるのです。

ここでいう「調整」とは、0.5mm~1mmレベルの話。

できあがってしまうとなかなか分からない部分であると同時に、ものすごく手間がかかってしまう作業になります。

床

私と職人との合言葉は、
「ここまでやっとけばいいだろう。」
ではなくて、
「ここまで、やらないといけないだろう!」
で、あり続けたい。

誰が設計するかによってできあがる家が全く異なるものになると同時に、どういった職人が施工するかによってもできあがってくるものは全く異なってくるのです。

建築家と工務店の信頼関係

建築家と工務店の信頼関係

私の今までの工務店での現場監督の経験から、設計事務所のつくる設計図はすごく繊細なものだと考えています。

お施主さんのこれからの暮らし方や希望がギュッと凝縮されているのだから、 当然ですよね。ちょっと表現を変えると“暮らしの設計図”といったところでしょうか。
そしてその図面には法規的な基準や耐震・断熱といった性能のこともすべて含まれています。

設計図に描かれた0.5mmや1mmといったこまかな寸法を忠実に再現することが、現場監督としての技術でもあります。

設計図が意図する数字の意味を読み取りがちがっていれば、
意図した空間ができないということもありえます。

現場監督は設計者の意図を図面から読み取る、
それを施工図として作成し、職人に確実に伝えていきます。
そして、職人が技術を発揮し実際につくり上げていく。

これの積み重ねが家をつくるということなのです。

完成したものを確認し、自分たちがどういったものをつくり上げたのか、
施主さんにどう喜ばれているか、
そういうことを再確認し、さらに信頼関係が深めていく。
こういった建築家と工務店の信頼関係も、家づくりにはとても重要だと考えています。

職人との信頼関係

職人との信頼関係

家づくりは何もないゼロからはじまります。

建主が暮らしたい住まいをイメージし、
それを元に設計者がプランを練って図面を描き、
工務店が見積りを立て施工の段取りをし、
そして職人がかたちをつくりあげていきます。

かたちのないものを作り上げていくためには、
やはり何より信頼関係が必要だと思っています。

ここでは“住まいの作り手同士の信頼関係”について、少しお話をしたいと思います。

建築家の図面にはさまざまなことが描かれています。
建主が気になるのは、表面的な意匠のことや、動線、間取りなのかもしれません。
もちろん、これもとても大切な部分です。

けれども、しっかり描かれた設計図面にはこういう平面的な要素の中に空間的な要素が多分に含まれています。
じっくり設計図面を読み取っていると、建築家がどんなことを考えて図面にしたのかが明確に読めてきます。

設計図通りに仕上げるためには、どうやって組み立てるべきか、現場での作業を効率よくするためにはどうしたらいいか….そういったことを考えながら「施工図」を作成するのが工務店の仕事です。
この過程をしっかり経ることによって建主がどのような暮らしをしたいのか、施工者の立場としてしっかりと感じ取り、施工に臨むことができます。

施工図

「誰のために、どんな家をつくるのか」というイメージを明確にしっかり共有できる関係を、建築家と施工者の間で築くことが大切だと思っています。

つまり建主の望む住まいのイメージをしっかりと反映した図面を描き、
現場監理ができる建築家であれば、工務店は安心して施工を進めることができます。

ここでちょっと施工者の立場として本音を言わせていただくと…
表面的な図面だけを渡してこまかな大事なところを工務店任せにし、現場でできあがったものを見て「これでは違う」というような建築家では、安心して施工することもできないので….。

(話を元に戻します)

そして、できあがった施工図を基に職人には現場でかたちを作り上げていきます。

職人には、しっかりと施工図を見てもらって打ち合わせをし、内容を確認してから施工してもらいます。

当然なのですが“施工図を理解できる”というのは、職人の技術の一つ。
これができないと違うものができあがってしまいます。

施工図と大工

しかし、ここで大事にしたいのは、 いろんな現場を経験してきたそれぞれの職種の職人の知識はとても豊富であるということ。

施工図を見ながら、「ここはこうしたほうがいいものができる!」といったアドバイスをくれる職人には安心して任せることができます。
それを次の段階でも考慮して、お互いの技術が向上していく。
そんな関係も家づくりには必要と考えています。

現場を進めながらの打ち合わせは、基本的には現地で行います。
設計者、職人と技術的な意見交換もすることができるよい機会です。

こういう3者の関係をしっかり築いていくのも現場監督の仕事です。

現場監督は、工程の節目では、各業種にしっかりと指示しながら現場を進めていきますが、毎日一日中現場にいることはできません。

そこで、それぞれの職人が次の工程の職人の作業のことも頭に入れて、現場を進めていってくれるととてもありがたいし、うまく現場が進んでいくことになります。

こういった、建築、現場監督、職人、
さらには、職人同士の横の信頼関係がいい家づくりの大切な要素になるのです。

予算内に納めるために、建築家が考えること

藍住Y邸

建主と一緒に家をつくっていくことが決まったら
これから建てる家に対してどんなイメージを持っているのかをお聞きすると同時に「総予算」をお伺いします。

建築時には、建築費とは別に、新規家電・家具類購入費、外構・植栽費、設計・監理料等がかかります。
そのなかで家にかけられる金額を把握するのです。

実際に土地を確認しに行った後に
・敷地形状や大きさ
・周辺環境
・建主の家に対するイメージ

こういったことと、予算を頭に入れ、プラン…いわゆる間取りといったものを導き出します。もちろん、容積率や建ペイ率といった建築基準法的なことも含めて考えます。

建物は使用する材料、特に仕上げ材によって大きく予算が変わってきます。
今までの経験値や実際にメーカーに問合わせしたりし、「この材料を使うのなら坪単価がこれくらい」ということを勘案し、全体のボリュームを調整していきます。

また、図面作成の段階で打合せを重ねることで、建主が大切にしたいことや実現したいことが明確になっていきます。
こうやったらもっと楽しいだろうということも。

そんなことを積み重ね、建主の要望をできる限り盛り込んで出来あがった図面を見積りに出します。
工務店さんからあがってくる見積書を見ると、どこにいくらかかっているのかということがわかります。

そこで、例えば、壁の仕上げ材でも比較的高価な材料である漆喰を使用していた場合、それは本当に漆喰を必要とする空間なのか、それとも異なる素材でも代用ができるものなのか、いま一度、予算配分を見直してみるのです。

こういった作業をすることで、最終的に目標金額に合わせていきます。

しかし、「何を大切にしたいのか」ということをクリアーにし、それを建主、建築家、そして出来れば工務店さんもが共通認識として持つことが予算内に納める一番のコツなのかもしれません。

見積りについて

工務店と建築家の打合せ

見積もりをしっかりするということで、家の値段が明確になるということをお話しました。
http://cocochi-yoku.net/column/?p=12

設計事務所との家づくりでは、施工をする工務店を選ぶ時に「入札」「相見積り」という方法が取られることがあります。
「入札」という言葉から誤解を受けやすいのですが、単純に金額が安い見積もりの工務店に仕事を任せるということではないのです。

図面通りの積算、材料や工賃の数量や金額が拾い落ちなくしっかりとできているか、出された価格が妥当であるかなど比較し、それによって安心してまかせる工務店かどうかを建築家が判断するために「入札」や「相見積り」が行なわれます。

あくまでも“妥当な金額の見積もりかどうか”ということが、重要になってきます

つまり、相見積りという作業は、信頼して工事を任せることができる工務店を見つけるために行なわれているものだと思います。
ですので、設計事務所と工務店の間にしっかりとした信頼関係があれば、入札などの作業は必要なくなると、私は思います。

設計事務所と工務店のしっかりした信頼関係があれば
早い段階で概算見積りを立てたり
建主や設計者との打ち合わせに参加することができます。
それによって、
建主・建築家・工務店の3者の信頼関係を早い段階で構築していくことができるのです。

家の値段って?

見積書1

一生で一番高価な買い物といっても過言ではないのが、家の購入かもしれません。
家を建て、暮らし始めるまでにはどれぐらいの費用が必要なのか?

ざっくりと以下のようなものが必要になります。

  1. 家そのものともいえる、建築工事費
  2. しっかりとした図面を描いてもらい監理をしてもらうための設計・監理料
  3. 照明器具、カーテン、冷暖房、庭工事
  4. 土地の購入代
  5. 税金、登記費用、水道加入金、火災保険、引っ越し費用、家電、などの諸費用

資金計画をしっかり立てるためには、この辺りは押さえておく必要があります。

 さて、その中でも“家の値段”というのは、どうやって決まるのでしょうか。
よく言われるのは、「坪あたりいくらになるのか」という“坪単価と”いうものです。これは、自社での仕様がきまっている “ 商品としての家づくり”をしているところでは、見積書でよく使われている方法です。

 この方法であれば、使う材料を標準化しているために、図面が出来上がった時点で、○○坪の家なので、坪数×単価=家の値段という関係で、見積書が出来上がります。
お客さんにとっても、早い段階で金額が明示されるので、シンプルでわかりやすいかもしれません。

坪いくらの家づくりでは、
「じゃあ、家を○○坪小さくしましょうか!?」
なんてことなってしまう場合もあります。

また、金額がすぐわかるという点ではメリットがあるのかもしれませんが、坪いくらとか一式いくらでは、どこにどれだけの費用が掛かっているのかがよくわからないということになります。

見積り風景

設計事務所の図面には建主の要望が、事細かにしっかりと描きこまれています。
その図面を基に、工務店が大工工事にはいくら、左官工事にはいくら、電気工事にはいくら…と各業種ごとの工賃や材料のひとつひとつ見積もりをしていきます。

しっかりと描きこまれているので、材料のひとつにしても、サイズや長さがを拾い出すことができます。
材料、それぞれに掛かる手間代、などできるだけ細かく積算していきます。
そして、「建築予算を見積る」ということは、各業者の数量等の間違いがないかもチェックを繰り返して集計していく作業になります。

この作業には設計事務所の図面が出来上がってから、2週間程度の時間がかかります。実は工務店にとって「見積り」は、とても大変な作業なのです。

そうして、材料や職人の工賃が細かく明示され、
家が出来上がるまでに、どういった材料がどのくらい必要で、
それを組み立てるには、どれぐらいの作業が必要になるかなどが分かる見積書ができあがります。
そして、それにはもちろん工事を管理するための費用や、安全に進めるための仮設の費用、保険の費用なども含まれています。
よってこの見積書はページ数にするとゆうに30枚を越す内容になります。

細かく明細がある見積書があれば、限られた予算の中でどの部分にどれだけの予算をかけれるのか、建て主がどこを大切にしたいのか、しっかりと建主にも考えてもらうことが可能になります。

建主の要望を満たすためにできる方法を、
それぞれの立場で
納得できるまで考えることによって、
家の値段は決まるものでありたいと思います。

設計で大切にしていること

設計で大切にしていること

「どんな暮らしをイメージしますか?」

建主と初めてお会いした時、私が必ず質問することです。
でも、この質問に対してスラスラと言葉にして答えることができる方はとても稀です 笑。

けれども、どんなことを大切にしていて、どんな暮らしを思い描いているのか。
なかなか明確にはならないであろうイメージを、時間をかけて言葉にし、共有し、これらを具現化することで建主の「想い」が形になると考えています。

そして、「想い」を一緒に創る過程において大切にしていることは、室内だけで完結するのではなく、室内空間が “ここちよく” 空間や外部とつながることです。

おおらかにつながった空間は、光や影がいろんな表情を見せ、
さらに、視線を外部へと導くことで、意識が限りなく広がると同時に、光や風、季節感といったものが、日々の暮らしのなかに取り込まれます。

“ここちよく” つながることで、小さな楽しみや発見が増え、
感性や想像力を育むことができると考えています。

また、
機能的であるべき場所と余白のある空間。
開く場所と閉じる場所。

そんなメリハリのある空間をつくることも大切にしています。

建主と共有した「想い」を図面に表し
その「想い」を確実に現場へと橋渡しすることも、
私の大切な役割だと思っています。

工務店ってどんな仕事をしてるの?

工務店の仕事

家を建てる時の方法として、いろいろあります。
ハウスメーカー、地元の工務店、知り合いの大工さんなど。

多くの方にとってなじみがあるのは、ハウスメーカーや工務店の設計・施工を主とする家づくりなのではないかと思います。
これらはそれぞれが得意とする特色のある手法で、家を作っていくもので、各社独自の「商品」といわれるような家を提案してます。

ここちよくの施工を担当しているK-supportは、工務店です。
けれども「商品」というのは持っていません。
商品というかたちで「この中から選んでください」というのではなく、「こういうものを作ってください」というものに対して、工務店としてできることを探し、提案しながら家づくりをしていきます。

その中でも、設計事務所の建築士さんの設計・監理による家づくりを得意としています。
言い換えると、家づくりの大きな要素である「施工」の部分にこだわってる工務店です。

工務店の現場監督は現場で実際に手を動かす技術者ではないけれども、設計者の図面を読み取り、職人に伝えるための施工図を作成し、数多くの職人をまとめたり調整する指揮者的な役割を果たします。

設計者が描いた図面を、工務店がきちんとその意図を汲み取って施工図として職人に伝え、それぞれの職人達がそれを元に技術を発揮し形にしていく。これの積み重ねが家を作るということなのです。

当たり前のことを当たり前に。
派手なことをに手を出すのでなく、当たり前の普通のことをコツコツと継続することで、本物が生まれてくる。そんな思いで施工の技術者として住まいづくりに携わっています。